コロナウイルスが蔓延して、世界中がそのワクチンを心待ちにしていた中、ファイザー社が製造したワクチンは、メッセンジャー・RNAに介入するという方法を初めて実用化したということで話題になっています。
今回の治験では、緊急事態ということもあり、普段だと倫理的観点から時間がかかり、様々な制約があるようなことを飛ばして、実用化を目指した結果、高い効果があると考えられるワクチンの開発に成功したようです。
ワクチン自体を‐70度程度で保存しなくてはならない、などの問題点はあるものの、コロナウイルスの収束に向けて大きな一歩を踏み出したことは間違いありません。
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現段階では、重大な副作用や長期的効果における懸念も発表されていませんし、確率論で言えば、特にそうした危険な作用が将来的に生まれることも少ないのではないか?と個人的には思っています。
一方で、メッセンジャー・RNA(m-RNA)への介入ということで、体の細胞にどのような物を作り出すかを指示するというレベルでの介入のため、長期的におかしなものを作り続ければ、ガンになる危険性もあるかもしれません。一方で、こうしたテクノロジーを応用すれば、ガン細胞に対する介入によってガン治療にも役立つのではないか?とも思います。
この分野は遺伝子工学として、非常に奥深いものですが、基本的な理解として、細胞とDNA、RNAの関係を理解しておくことは重要です。
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ホルモンの役割
まず初めに、人の体には約30兆の細胞があると言われています。例外はあるものの、これらの細胞には基本的に核があり、その中にはDNA(Deoxyribonucleic acid)があります。DNAは、遺伝子情報であり、その細胞がどういうものであるかが書き込まれています。そして、DNAは、細胞に対して主に二つの役割があります。
一つ目は、細胞自体を増殖させる際に、その情報として活用されています。二つ目は、細胞にタンパク質を作らせる役割があります。そして、RNAは、二つ目の役割に関係してきます。タンパク質を作るというのは、体を作ることになり、例えば筋肉トレーニングで損傷した筋肉の細胞を回復させてより強くさせたり、切ってしまった皮膚を再生したり、内臓のダメージを治したり・・・と、体を成長させたり回復させたりするのに必要不可欠な働きとなります。そして、細胞のDNAにタンパク質の精製を始めるようための刺激を与えるものが、ホルモンになります。
細胞の造り

細胞は図1の右のように考えられます。もちろん、典型的な細胞という考え方は難しいほど、様々な細胞はあるものの、ここで大切なのは細胞の中央に位置するオレンジ色の核(この中にDNAがあります)、細胞の膜と核の間(サイトプラズムと言います)、そして細胞の膜があります。細胞の膜の拡大図は、図1の左のようなイメージになっていて、細胞の外の物が中に入らないような仕組みになっていて、細胞の中の物が外に出ないようにもなっています。しかし、細胞の表面には様々なリセプター(Receptor)と呼ばれるものがあり、例えばホルモンを細胞内に運ぶためには、そのホルモン専門のリセプターにホルモンが結びつくことで、細胞内に運び入れることが可能になります。そして、前述した通りホルモンがタンパク質の精製を促すため、健康においてホルモンが果たす役割が大きいことが分かります。
m-RNAとタンパク質の精製
次に、今回のメインの話となるm-RNAとタンパク質の精製についてお話します。上述した通り、細胞の情報を持つものがDNAになります。m-RNAとは、その遺伝子情報の写しになります。

図2のとおり、DNAは、4つのNucleotideと呼ばれる物で構成されています。DNAは、対になって構成されている半面、RNAはその写しであり、片方だけで存在しています。

写しのRNAは、メッセンジャー・RNA(m-RNA)と呼ばれていて、冒頭に述べた通り、コロナのワクチンで今回実用化されたものは、ここへの介入となります。そして、図3に見られるように、m-RNAは図中Codonと呼ばれる情報を持っていて、これに基づき、図中t-RNA(transfer-RNA)がアミノ酸を運んできます。アミノ酸はタンパク質を構成するので、Ribosomeによって、タンパク質が構成されていき、細胞を作っていくことになります。この働きは、最後にm-RNAの信号(Codon)により停止が命じられるまで続きます。
このように体には大量の細胞があり、各細胞がタンパク質を生成して細胞を維持したり、回復したりしています。これらの細胞の情報をDNAと言い、タンパク質精製にはRNAというDNAの写しを使用してRibosomeで行われます。これらのタンパク質精製は、ホルモンによる刺激などで活性化されます。
文責:Dr Hanatsu Nagano