歩いていることが億劫になる理由の一つとして、疲労があると思います。
疲れているから歩きたくない。あるいは、疲れるから歩きたくない。
と考えることが、運動分足を引き起こします。
しかし、このような考え方をするのも、もしかしたら自分を守る本能的なものなのかもしれません。というのも、疲れる歩き方が体に負担をかけていたり、怪我のリスクを増やしたりする可能性があるからです。以前、エネルギー効率については、詳細まで取り上げてみました。
今回は、具体的に日常的な歩き方の中で、エネルギー効率の良い歩き方を①実践する方法、②そのメリット、③そのバイオメカニクス的な理論
の順にお話させて頂きます。
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エネルギー効率の良い歩き方を実践する方法
大きく分けて二つ紹介します。両方とも足が地面に着地した時の話です。
1つ目は、べた足を避けること。
2つ目は、膝を若干曲げておくこと。
この2つが大切になります。
ハイヒール系の履物は、構造上かかとから踏み込むのが難しいため、ベタ足になりやすいという問題があります。
膝を若干曲げて足を着地させ、それからさらに膝を少し曲げることで、パワー(エネルギー)を吸収することができます。その後、膝を伸ばしていくときに、大腿四頭筋に蓄えられていたエネルギーを活用することができるため、効率よく前に進むことができます。
エネルギー効率の良い歩き方のメリット
第一に、疲れにくくなるというメリットがあります。
第二に、足や膝にかかる負担を軽減することができます。
第三に、足や膝の変形を予防することができます。
第五に、機能的な歩き方を手に入れることができます。
エネルギー効率の良い歩き方のバイオメカニクス的な理論
冒頭にあげた通り、「ベタ足を避ける」「足が着地する時に膝を軽く曲げておく」の2点が大切になります。
ベタ足を避ける意味は、衝撃を分散させることにあります。

バイオメカニクスにおいて、力=質量×速度÷時間 という公式があります。
この中で、「時間」を長くすると力が減るのが分かるでしょうか?
これは、野球でボールをキャッチする時に、グローブを引きながらキャッチしたほうが、衝撃が和らぐことと同じです。つまり、グローブとボールが触れている時間を長くすることで、1点に衝撃が集中するのを避けて、長い時間をかけて分散させることができます。
高いところから飛び降りて着地した時も、膝を伸ばしていると、怪我をしますが、うまい具合に着地と同時に膝を曲げていけば、この「時間」を延ばすことができるので、衝撃分散に役立ちます。
ベタ足だと衝撃が吸収できず、かかとから踏み込むことで、かかと着地からベタ足までの「時間」を長くすることができるので、足にかかる衝撃を分散することが可能となります。

足が着地する時に膝を軽く曲げておくことで、膝にかかる衝撃をエネルギーとして再利用しやすくなります。
これは、大腿四頭筋(腿の前面の筋肉)が衝撃を吸収する機能を活用するためです。この仕組みを活用するためには、大腿四頭筋は働いているが、膝自体は曲がってきているという状況を作る必要があります。
高いところから飛び降りて、着地と同時に膝を曲げていくのと同じです。大腿四頭筋自体は働いているものの、これは膝を伸ばそうとしているのではなく、膝が急激に曲がるのを予防するために働いています。
仮に大腿四頭筋が使われなかったら、膝が一気に折れ曲がってしまいます。
例えば、重いものを持っていて、ゆっくりとテーブルの上に置くときは、上腕二頭筋を使いながら、腕を伸ばしていきます。上腕三頭筋の収縮は腕を伸ばす効果がありますが、この場合は、二頭筋の方を使いながら一気に落とすことを避けてゆっくりと物を下ろしていくことになります。
このように、筋肉は働いているが、その筋肉の収縮が本来行うのとは逆の動きの中で使われている状態、そしてその目的は、動きをスローダウンさせることという状態を、伸張性収縮(Eccentric Contraction)と呼びます。伸張性収縮とは文字通り、伸びていっているけど、収縮している状態です。そして、この伸張性収縮が衝撃吸収に役立つことが分かっています。
膝においては、大腿四頭筋の伸張性収縮を活用して衝撃を吸収しながらも、あるところでその吸収した衝撃を再利用して膝を伸ばしていく(短縮性収縮)動作に使えれば、衝撃が関節を痛めることなく、歩行に必要な動作を行うことに使われていくことになります。
このように、歩いている時は、衝撃=エネルギー を、うまい具合に前に送り続けていくことが大切になります。どこかでしっかりと受け止めると、その部分に負担がかかります。こうした中で、今回は足首と膝の使い方についてお話しました。
文責 Dr Hanatsu Nagano