人体も含めて「モーション」を起こすためには、力・回転モーメントが必要となります。
力と回転モーメントの違いは、直線運動を起こすものなのか?それとも円運動を起こすものなのか?というところにあります。
もちろん、力や回転モーメントは、必ずしも「モーション」を起こすとも限りません。
良い例は、冷蔵庫を少し押したところで動かないことがあげられます。あるいは綱引きで力が拮抗していたら、両サイドが大きな力で引っ張られているにも関わらず、動きはあまりありません。
これらを表す数式は、以下の通りです。
F = m.a
T = I.α
左辺と右辺を精査すると、a = F/m α= T/I となります。
aとαは加速度となり、それぞれ単位はm/s2 、°/s2となり、一秒間にどの位、速度変化が起こるかを表します。
これを歩行中の膝関節炎に限定して考えた時に、「パワー吸収」という概念が大切になります。
足が地面に着地した際の衝撃をいかに吸収できるかは、ひとつにパワー吸収の概念があり、伸張性収縮によって、これを促進させることができます。
伸張性収縮は、この場合大腿四頭筋や前脛骨筋(あるいは脹脛も)に起こりやすく、足着地後の体全体が下方向へ移動するモーションを減速させ、止めるまでを表します。
例えば、大腿四頭筋の収縮は、基本的に膝を伸ばす作用がありますが、足着地直後は、大腿四頭筋は使われているにも関わらず、膝は曲がります。
しかし、もし仮に大腿四頭筋が全く使われなかったら、そのまま体は下方向へ落ちていきます。
このように筋肉が元来作用させるモーションと逆の動きをしているが、減速に役立っている状態を、伸張性収縮と言い、パワーが吸収され、これは負の仕事として表されます。
このパワー吸収を効果的に行うことで、足着地時の衝撃を吸収するのに役立つと考えられています。
もう一つの衝撃吸収の考え方は、エナジェティクス(Energetics)となります。
これは、衝撃をエネルギーと捉え、様々な形に変換させることで、下肢関節にダメージを与える振動を削減するという考え方です。
エネルギー保存の法則で言われている通り、エネルギーは増えたり減ったりするのではなく、形を変えていくことになります。
そして衝撃をエネルギーのインプットと捉えた場合、足の着地時の衝撃をつま先の蹴り出しに再利用できるエネルギー効率を最大限に高めることで、下肢関節への負担を軽減することが可能となります。
エネルギー吸収と再利用は、様々な方法で可能ですが、例えばアキレス腱にはこの役割があると考えられています。
つまり、足着地時に足首が背屈状態になっていれば、アキレス腱に衝撃を弾性のエネルギーとして蓄えることができ、つま先離地の際に底屈と同時に溜めておいた弾性エネルギーをリリースします。
これにより、自発的に蹴り出さなくとも、足を前に進めやすくなり、このようにエネルギー効率の高い足首の動きを使う、「つまり、衝撃をエネルギーとして吸収して足の蹴り出しに再利用する」ことが、理想的な歩行に繋がります。
歩行による衝撃は、そこまで強度が高いものではありませんが、そうしたエネルギー吸収をアキレス腱のみで行うと、それ自体が怪我に繋がる可能性も否定できないため、過剰にやらないように注意が必要です。
また、こうしたメカニズムを促進させるような履物を利用することで、人体への負担を軽減して、エネルギー効率の高い歩行が可能となります。